小学生にかける学習費
公立34万円、
私立183万円の実態とは
2026.1
小学生にかける学習費
公立34万円、
私立183万円の実態とは
2026.1
我が国では、子どもが満6歳になると、小学校に入学することになります。
憲法26条では「能力に応じて等しく教育を受ける権利(第1項)」と、「子女に教育を受けさせる義務とその教育は無償とする規定(第2項)」が記されており、また学校教育法や教育基本法にも国や地方公共団体が設置する義務教育は無償で受けることができるとされています。
しかし、「お受験」などを経て入学する私立の小学校は、私立大学の授業料並みの学習費がかかります。なぜ、そこまでの費用を捻出してでも私立小学校へ通わせるべきなのか、その実体を調べてみました。
「義務教育は無償」とはいっても、児童・生徒が個人で通う習い事や塾、制服や体操着、部活動費、参考書の購入費、給食費、遠足や修学旅行等の費用など、教育に関連する費用については、家庭で捻出しなければなりません。文部科学省の調査によれば、公立の小学校に通う場合の児童1人当たりの年間支出の平均は、約34万円だったことがわかりました。
一方で、私立の小学校は、学校へ支払わなければならない学費が年100万円を超えてしまうところが多く、公立の小学校でかかる費用に加え、電車通学などの交通費なども必要になってしまうため、学習費の平均は約183万円と算出されています。
文部科学省「令和5年度子供の学習費調査の結果」(令和6年12月)より引用
上記調査結果をグラフで示すと、以下のように表すことができました。
(文部科学省「令和5年度子供の学習費調査の結果」に基づいて筆者作図)
このグラフは、公立であれば、小学校・中学校・高等学校と進むにしたがって学習費が増えていくのに対し、私立だと逆に減っていく傾向にあるという不思議な状態にあります。 高等学校は、就学支援金制度や自治体の施策によるいわゆる「高等学校授業料無償化」による授業料負担を一定程度に抑えた効果といえますが、それにしても私立小学校の学習費の高さは私立中学校に比較しても高く見えます。 例えば、私立小学校として有名な慶應義塾幼稚舎に入学した場合、支払う授業料は以下のようになります。
慶應義塾幼稚舎ホームページ「入学試験Q&A」より引用
https://www.yochisha.keio.ac.jp/admissions/qa/
この金額を根拠に計算すると、6年間にかかる費用は計850万円。1年当たり142万円ほどになります。ここに3~40万円程度の関連費用を加算すれば、学習費調査の結果に近い数値となります。
文部科学省によれば、私立小学校に在籍する児童の割合は、日本全体の小学生のうち、1.2%程度で推移しています。これはもちろん、競争率が100倍近いというわけではありせん。全ての子どもたちに公平に機会を与えられた選抜試験ではあるものの、そもそも年100万円を超える授業料が支払える経済状況でなければ通学させられないという事情や、私立小学校は都市部などに集中しているため、都市部に居住していなければ受験も通学も困難という事情が大きいと思われます。
慶應義塾幼稚舎は1学年の定員が144名ですが、教育上適正なクラス編成(36名×4クラス)、同じ教師が担任として6年間持ち上がりで担当(24名)する、教科別専科制と呼ばれる教員(24名)、更に非常勤講師(24名)が存在し、児童に手厚い体制をとっていることを考えれば、むやみに児童の数を増やすことはできませんので、学校を維持するためには1人当たりの授業料が高くなってしまうことは避けられないといったところでしょうか。
私立小学校は、児童の特性に合わせた教育を行うことをモットーにする学校が多くあります。
親としては私立の小学校・中学校と、質の高い教育を行って我が子の学力を向上させて、将来は有名・名門大学へ進学させることを目的に高い授業料を捻出するのが一般的だと思います。それが子どもの成育に合っていて、より刺激し合える環境を提供できるなら何の問題もありません。
かつて私は神奈川県内の補習塾で講師をしていたことがあります。そこには名門の私立小学校児童が通っていました。その小学校で優秀な成績を取っていたある児童が、作文や算数の文章題に対応する授業を行っていた当塾に通っていました。すると、この塾で勉強すれば成績が向上する秘密かもしれないと考えた数人の児童が入塾してきました。後追いで入塾した彼らは、私立小学校へ入学するため、いわゆるお受験専門の塾を経て合格・入学したものの、小学校での学習意欲をまるで無くしてしまい、親の強い意向でやってきました。
それらの後追い入塾の数人は、学業成績は奮わないことは明らかでしたが、芸術系あるいは体育系の才能があふれる子どもたちでした。当時20歳の大学生であった私でさえ、「この子たちは問題集を解くよりも絵画やスポーツの方で活躍すべきだ」とわかるのです。
一般論としては、芸術やスポーツというと、一部の天才的な人を除いて成功することが難しいことから、親としては必須科目の成績を少しでも上げるために塾通いをさせてしまいます。しかし、実は得意な分野が芸術やスポーツ分野であっても、また天才的とまではいかない実力であっても、プロの世界で活躍している人たちは多くいます。美大を卒業して一級建築士の道を進んだ人や、専門学校で柔道整復師の資格を取って、プロ野球チーム専属のスポーツトレーナーとして有名になった人がいるように、有名・名門大学へ行く必要が無い人もいるのです。
この子に最高の教育を受けさせてあげたいと考え、どうにかお受験を突破して私立小学校へ入ったものの、勉強そのものが嫌になってしまった。通学する小学校は芸術的な特性を伸ばすような教育方針ではない。しかし、今まで我が子に投資した教育費が無駄になってしまうため、引くに引けないなんて親子を見てきた私としては、「本当にその私立小学校の受験、お子さんの個性に寄り添っていますか?」と問いたくなってしまうのです。
松本肇(まつもと・はじめ)
教育ジャーナリスト
専門分野は大学改革支援・学位授与機構を活用した学位取得方法、通信制大学・通信制高校・高卒認定試験・専門学校など。著書「短大・専門学校卒ナースが簡単に看護大学卒」等。
いわゆる「学歴フィルター」と呼ばれる価値観よりも、大学で得られる「アカデミックスキル」という数値化しにくい教育の有無に関心がある。
日本テレビ「DayDay.」、フジテレビ「めざまし8」、「ホンマでっか!?TV」、ABEMA「アベマプライム」などでゲストコメンテーターを務める。