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前回の連載では、低学年のうちに図形を好きになるためにさまざまな試行錯誤を重ねて育んできた「宝探しマインド」を発揮することが不可欠であることを書かせていただきました。では高学年ではどういった能力が求められるのか。高学年になると入試を見据え、時間内に解ける力というのも必要になってきます。忘れていけないことは、その土台はお子さまが時間をかけて、頭の中で「どう攻略しようか」と試行錯誤することから生まれます。一方で、高学年の図形にはある程度図形のセオリーがあります。すべてのご紹介は難しいですが、その一部を今日は紹介します。

例えば、中学受験にはいくつかセオリーと呼ばれている次のような補助線の引き方があります。図形が苦手と感じるお子さまには、補助線を思いつくままに引いてしまう傾向があります。図形を学び始めたばかりのころはあちこちに線を引いて試行錯誤してみるのは必要な時間ですが、問題の難度が上がると「とりあえず引いてみる」ことが通用しなくなります。

円の補助線の引き方は、どの受験生も何度も説明を受けるものでしょうが、実は上の左側のように点と点を結ぼうとする傾向が子供たちには強くあります。何か解けないときに、まさに「とりあえず引いてみる」をしてしまうからでしょう。ただ、円は絶対に「中心と円周上の点を結ぶ」というセオリーがあるので、これは思考ではなく作業として右上のような補助線を引くことになります。この事実だけを取り出せば、思いつけるか・思いつけないかの閃きのように感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、円は中心と半径が決まらない限りは特定できないわけですから、当たり前の補助線とも言えます。つまりは、閃きではないということです。ただ図形が厄介なのは、左のような補助線を引くと答えが出せないという点でしょう。セオリーに沿って線を引かないと思考が始まりません。図形が難しいと感じてしまうのは、セオリーをきちんと理解していないからです。

図形こそ「焦らず、急がず、諦めず」

こうしたセオリーがどれほど重要か、実際に問題を解きながら見ていきましょう。次の問題では、「3つの角が60度だったら正三角形」「45度があったら直角二等辺三角形」といったセオリーが活かされます。このセオリーは比較的、どの受験生も知っているものになりますが、この問題は一体どちらを活かすのかが難しい問題です。

例えば、45度を活かすことを考えると、一番左のような直角二等辺三角形を作ることができます。一方で、60度を活かすと正三角形や、三角定規を作ることができます。まずはこれらの3つの方針を立てられるところが、セオリーの実行となりますが、実際には、どの補助線が正しいかは瞬時には分かりません。これが図形の試行錯誤の部分です。ポイントは線を引くところが試行錯誤なのではなく、どのセオリーが正しいのかを考えるのが試行錯誤の部分だということです。

実際には、最後の三角定規が正しく、左図の右下の二等辺三角形を発見すると,さらには青い二等辺三角形が見つかり、再度はピンク色の直角二等辺三角形が見つかることから、求める答えは、30+45=75度と答えを出すことができます。ただ、この問題も闇雲に線を引けばどんどん正解から離れていっていまいますし、「3つの角が60度だったら正三角形」「45度があったら直角二等辺三角形」というセオリーをいかに活かすかという部分が重要です。
こういった問題に取り組むためには、問題にあるチェック項目に従いながら、子供たちに「どの情報使う?」「どこに補助線ひいてみる?」「どの角度に目がいった?」と質問を投げかけ、みんなで答えを探していくようにすると盛りあがります。与えられた情報を書き込み、必要な武器をそろえ、隠されたヒントをもとに謎を解いていく先に、探していた答えが現れる。このプロセスは子供たちにとってゲームと同じ、つまりは「宝探しマインド」に繋がります。いちばんやってはいけないのは、解答を見ながら教え込むことです。「数論」と同じく、図形も答えにたどり着く試行錯誤の過程が何より大事だからです。お子さまがセオリーをしっかりと習得できているかが確認できれば、あとは自由に考えさせる方が伸びていくと思います。

図形の習得のイメージはピラミッドです。先ほどからお話ししているセオリーの習得が「武器の習得」にあたります。問題を解く力は、その武器を使った試行錯誤の過程を経て身に付くものなので、どうしてもピラミッドの完成までには時間がかかります。セオリーを身に付けるために大量の演習をさせてしまうと、お子さまはより強く苦手意識をもつこともあるので、注意が必要です。

鉄則は「図形こそ焦るな」です。保護者の方にはお子さまが試行錯誤するようすを見守ることに専念することが大切です

取材協力:リセマム
早稲田アカデミー中学受験部 部長
丸谷俊平