2月1日は東京都および神奈川県の私立中学校一般入試の解禁日です。特にこの日の午前中に入試を実施する学校を第一志望とする受験生が多くなっています。本年度はこの受験生の総数が約43,000名で、これは東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県の公立小学校在籍者数の約15%程度に相当します。実際には1月入試校だけを受験したり、公立一貫校のみを受験する児童もいるので、中学受験生はもう少し多いと思われます。
こうしたなか、早い段階で合格校を確保する動きが強まっているのが特徴の一つです。
サピックス小学部の卒業生は、平均して1名あたりの出願予定校数は約8.9校で昨年度の約8.7校より増加しています。第一志望校に合格後は受験をしない方も多いので、実受験校数は約6.2校でこちらも昨年度の約6.0校より増加しています。実受験校数でみると1月以前の学校が昨年度の約2.26校から本年度は約2.44校に増加していますので、まずは1月に入試を実施する埼玉県や千葉県、そして地方校の首都圏入試を受験し、受験に馴れるとともに進学先を確保する動きが強まっていることが分かります。また2月1日の1名あたりの平均受験校数は約1.46校です。受験生の半数弱が午前、午後と2校の受験をしていることが分かります。午後入試校の増加、試験当日に合格発表をする学校が増加していますので、受験は短期決戦型のお子様が増加しています。2月4日以後に入試を実施する学校では前半の入試での手続き状況で4日以後の合格者数を決めますので、前半の入試での手続き率が高いと後半の入試ではほぼ募集定員通りに合格者数を出し、実質倍率がかなり高くなっていることも少なからずあります。1月校や午後入試を活用して早い段階で合格校を確保することが非常に重要になっています。
さてここからはまずは入試日別に各学校の出願状況をみていきましょう。
開成 1259名⇒1234名、麻布826名⇒761名、武蔵546名⇒518名、駒場東邦644名⇒617名と最難関校がのきなみ出願者数を減少させているのが大きな特徴です。ただし、受験生の偏差値分布をみると各校ともチャレンジ層が減少していますので、必ずしも易化しているわけではなく例年とほぼ同じ難易度であったと思われます。一方で増加しているのがまずは慶應普通部、569名⇒675名と大きく増加しています。同校は昨年度WEBサイトで受験者や合格者の平均点、合格最低点などを初めて公表しました。また各種の説明会や合同相談会にも積極的に参加し、広報を強化したことも増加の要因だと思われます。慶應普通部に入学するとそのまま慶應義塾高校、慶應義塾大学に進学できることも大きな魅力です。他に出願者数が増加している学校が本郷①516⇒614、海城①538⇒569、逗子開成①453⇒476名などです。最難関校に挑戦するよりもやや合格しやすい学校を受験する安全志向が強かった学年だということが分かります。特筆すべきは、2026年度から明治大学付属世田谷中学校に校名変更し、同時に共学化する日本学園①が330名⇒493名と大きく出願者数を伸ばしていることです。明治大学の系属校になることの発表以後、出願者の偏差値帯が上昇し、毎年のように難化傾向を示しています。
桜蔭591⇒542、女子学院708⇒706、雙葉399⇒389、フェリス431⇒415と女子も最難関校が出願者数を減らしています。ただし、男子と同様にチャレンジ層の減少が目立ちますので、必ずしも易化しているわけではないと思われます。一方で出願者数を伸ばしたのが2023年度の大学受験で東京大学13名(うち現役が12名)合格の鷗友学園女子520⇒557、推薦基準を満たせばほぼ全員が立教大学に進学できる立教女学院294⇒367、同じくほぼ全員が早稲田大学に進学できる早稲田実業213⇒221(女子のみ)です。出願者がほぼ横ばい、あるいは減少傾向ですが、出願者の偏差値帯が上昇し、年々難化しているのが共学校の渋谷渋谷①235⇒240(女子のみ)、広尾学園①288⇒250(女子のみ)などです。
今年度は2月2日が日曜日でした。キリスト教のプロテスタント校の一部は宗教上の理由で日曜日は入試を実施しないため、入試日を変更します。例年は、2月2日は青山学院の入試日ですが、今年度は3日に移動しています。そのため男女とも2月2日の大学附属校の出願者数が増加し、逆に2月3日は出願者数が減少する傾向になります。次年度は2月1日が日曜日です。そのため女子校を中心に大きく入試日が動くいわゆる「サンデーショック」の年になります。
さて男子の状況をみてみると今年東京大学の合格者数が100名になった聖光学院①が691⇒752と大きく増加しました。大学附属校では明大中野①が937⇒972、立教池袋①が333⇒417、学習院①が444⇒455と出願者数を伸ばしています。進学校では城北②が715⇒782、世田谷学園②が538⇒577、桐朋②が640⇒677などが増加傾向です。渋谷渋谷②は503⇒485(男子のみ)、本郷②は1420のままですが、両校とも開成などの最難関校との併願者が多く、難度はむしろ上昇しています。
一方で女子も青山学院の入試日移動の影響が大きく、附属校では慶應湘南藤沢が271⇒282(女子のみ)、法政第二①が406⇒585(女子のみ)、明大明治①が315⇒334(女子のみ)と増加しています。進学校では吉祥女子②が1007⇒1028、横浜雙葉②が306⇒350、女子大の附属ですが、実質的には進学校の大妻②が643⇒669、共立女子(2月2日)が644⇒697です。注目を集めたのは今までの4科目の入試以外に算数・英語資格入試を導入した豊島岡女子学園です。同校は、算数は4科目入試と同じ問題で配点を200点、英語は検定等の級によって50点~100点の合計300点満点の入試です。同校の算数は難易度が高いため、算数の影響が強いと予想され、4科目と併願する受験生が多かったようです。3回の入試で192名受験し、合格者が32名と厳しい入試となりました。
3日は前述の青山学院の入試日移動の影響があり、男女とも出願者数を減少させている学校が多いです。最難関の筑波大駒場が昨年度通学区域を広げ、出願者数を増加させましたが、本年度は660⇒644と減少、慶應中等部は861⇒834(男子のみ)、募集定員を270名から240名に減じた浅野も1742⇒1711と減少しています。青山学院は374⇒568(男子のみ)と増加、立教新座②が266⇒285、逗子開成②が441⇒457、海城②が1381⇒1385などが増加しています。
青山学院が538⇒620(女子のみ)、鷗友学園女子②が682⇒758と増加しましたが、他はのきなみ減少しています。特に女子に人気の高い公立一貫校は今年から東京都も男女枠を外し、点数のみで合否を決めるようになり、女子には有利になると予想されましたが、小石川が684⇒551、桜修館が705⇒612、三鷹が769⇒706、両国が700⇒608、武蔵が421⇒381とのきなみ減少しています。増加したのは人口増の区立九段の区内枠で177⇒222です。神奈川でも横浜市立南が690⇒788と増加したほかは減少している学校が多いです。国立の附属中学校も減少している学校が多く、高校の実質無償化による公私間の学費の差が減少することの影響が少しずつ中学受験にも表れているように思われます。
さて今回は難関校を中心に2月の入試を紹介しましたが、次回は午後入試校や近年志願者を増加させている注目校などを中心に紹介したいと思います。
広野 雅明( ひろの・まさあき )
サピックス教育事業本部本部長。サピックス草創期から、一貫して算数を指導。算数科教科責任者・教務部長などを歴任。現在は、入試情報、広報活動、新規教育事業を担当。