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中学受験と高校受験は、どちらが有利なのでしょうか?

この問いの答えは、住んでいる場所、お子様の適性、親の経済力、サポートできる時間と労力などによって変わってきます。中学受験と高校受験どちらが有利かという問いに絶対的な答えはありません。そこで、中学受験、高校受験それぞれのことを知ったうえで、わが子にはどちらの受験が良さそうなのかということを検討することが大事です。今回は、高校受験で知っておきたい10の事実を紹介します。

高校受験で知っておきたい10の事実 その1 
私立高校受験は3科目入試

開成高校や千葉県の市川高校、渋谷教育学園幕張高校などの成績上位校は理科、社会の入試もあるものの、たいていの私立高校は国語、数学、英語の3科目受験です。理科、社会は苦手。でも、小学校低学年から英会話をやってきたから英語はわりと得意。そんな子は私立高校受験で力を発揮しやすいです。

高校受験で知っておきたい10の事実 その2 
努力が報われやすい受験

高校受験は努力が報われやすい受験であるという理由は、おもに3つあります。

理由その1

高校受験は中学校の内申が影響します。日々の学習をコツコツと積み重ねられる子にとっては、中学校の内申が入試に有利に働きます。
学校の定期テストや高校入試本番など、緊張感のある場面で力を発揮するのはあまり得意ではないが、出された宿題はちゃんとやって、提出物もしっかり出すことはできる。そういう子が評価されるのが内申です。

理由その2

入試科目である数学は、算数のようなひらめきよりも、積み重ねた努力が点数に比例しやすい科目です。数学は公式を理解した上で覚えて使えるようにトレーニングを積み重ねていけば、中学受験算数よりもできるようになれる可能性が高いです。

理由その3

入試科目である英語は、数学以上に勉強しただけできるようになる科目です。英語は、単語と熟語を覚えて、文法を理解して、問題を解いてミスを減らして、長文に慣れて、リスニングに慣れて……と、やることが盛りだくさんです。英語はすぐにできるようにはなりません。でも、そのぶん、積み重ねた努力に比例してできるようになっていきます。

高校受験で知っておきたい10の事実 その3 
理科、社会が中学受験よりも簡単

高校受験の理科、社会は中学受験の理科、社会ほど難しくありません。なぜ、高校受験の理科、社会が中学受験の理科、社会ほど難しくないかというと、一般的に「高校受験の理科、社会」という場合、それは公立高校の理科、社会入試を指すからです。公立高校の入試は学校の教科書内容からしか出せないので、私立中の理科、社会と比べると、難しくないのです。

高校受験で知っておきたい10の事実 その4 
高校受験は「ふつうの受験」

中学受験では、たとえば算数は、多くの私立中入試で旅人算、流水算などの「特殊算」というような公立小学校の教科書には出てこない特殊な計算で解く問題が出題されます。このように、学校の授業で習うことを大幅に超えた内容が受験で問われるのは、中学受験、高校受験、大学受験のなかで、中学受験だけです。

高校受験で知っておきたい10の事実 その5 
15歳での受験である

女子は10歳くらいから、男子は12歳くらいから思春期に入って、中学校の3年間で心身共に大きく成長します。12歳の受験よりも15歳の受験の方が成長差は縮まるので、早熟でない子にとっては早熟の子との差が縮まります。
また、15歳にもなると、自分の将来を自分で考えられるようになってきます。塾で聞いてきた話や部活の先輩の進学先を耳にして、子供の方から「この学校を受けたい」などと言ってくるようになるのです。志望校を親主導ではなく、子供が主体的に決めていくことになります。
15歳になって子供の適性や将来の希望などがわかってきてから進学先を選べるのは、高校受験のメリットだと言えるのでしょう。

高校受験で知っておきたい10の事実 その6 
中学受験ほどお金がかからない

大手中学受験塾の4年生、5年生、6年生はそれぞれ、中1生、中2生、中3生の月謝と同じくらいになり、中学受験も高校受験も、塾の月謝は同じくらいです。
しかし、中学受験はメインの塾に加えて、個別指導や家庭教師も利用しているケースが少なくありません。一方で、高校受験でメインの塾に加えてサブの塾や家庭教師をつけるのは少数派です。
高校受験は、各学校共通の入試問題を採用している公立高校志望であれば、中2、中3から塾に入っても、学校の勉強をそれなりにきちんとやっていれば、トップ校に入ることも決して不可能ではありません。

高校受験で知っておきたい10の事実 その7 
公立高校と私立高校を合わせて受験しやすい

公立高校と私立高校の入試は都道府県や学校ごとに違いがあるものの、中学入試における公立中高一貫校の適性検査と私立中の入試ほど、問題傾向に差がありません。高校受験は、私立志向の強い東京でも、都立高校の志望率は約7割、都立高校、公立高校は1校しか受験できないので、ほぼ全員が私立高校も合わせて受験します。高校受験は公立、私立の両方を受験する前提の受験です。

高校受験で知っておきたい10の事実 その8 
受験のバリエーションが多い

高校入試は受験形態のバリエーションが多いです。推薦入試も公立と私立では選抜方法がまるで異なります。
たとえば、都立難関校の推薦入試は名ばかりの「推薦」で、高倍率になります。

2024年の推薦入試の倍率

日比谷高校  2.55倍
西高校    2.95倍
青山高校   3.70倍

都立高校の推薦入試は、調査書点に加えて、個人面接、集団討論、作文・小論文などによって合否が決められます。
一方、私立高校の推薦入試は、合格したら必ず入学する単願推薦、公立高校に不合格だった場合に入学する併願推薦や併願優遇制度という制度がある学校もあります。
他にも私立高校は、英検を取得しているとその取得級に応じた加点措置がある学校など、高校受験は受験のバリエーションが多いので、その子に合った入試を選んで受けることができます。

高校受験で知っておきたい事実 番外編

さて、ここで「高校受験で知っておきたい10の事実 その9」に進む前に「高校受験で知っておきたい事実 番外編」をお伝えします。
それは、東京都にお住まいであれば、または引っ越し予定であれば、東京都教育委員会から進学指導重点校などに指定された都立高校を受験、進学可能であることです。
東京都教育委員会は、都立高校の中でも特別に大学進学指導に力を入れている学校を「進学指導重点校」「進学指導特別推進校」「進学指導推進校」というグループに分けてそれぞれ指定しています。

●進学指導重点校
日比谷高校 西高校 国立高校 八王子東高校 戸山高校 青山高校 立川高校
●進学指導特別推進校
小山台高校 駒場高校 新宿高校 町田高校 国分寺高校 国際高校 小松川高校
●進学指導推進校
三田高校 豊多摩高校 竹早高校 北園高校 墨田川高校 城東高校 武蔵野北高校 小金井北高校 江北高校 江戸川高校 日野台高校 調布北高校 多摩科学技術高校 上野高校 昭和高校

上記のなかで特に大学進学指導に注力しているのが「進学指導重点校」で、現在7校が指定されています。次いで「進学指導特別推進校」、「進学指導推進校」の順で大学進学指導に力が入っています。
そんな進学指導重点校の中で最も大学進学実績が高いのが、東大合格者数の高校ランキングトップ10に毎年入る日比谷高校で、2024年の日比谷高校の東大合格者数(現役合格)は、東京の女子御三家トップの桜蔭に並ぶ52名。ランキング上位に国立高校・私立高校がひしめくなか、唯一トップ10入りを果たした公立高校です。
進学指導重点校は難関国公立大学への進学を目指しているため、文系・理系両方の教科に対応したハイレベルなカリキュラムが設定されています。学校ごとに特色もあり、たとえば戸山高校には「チームメディカル」というプログラムがあり、医学部への進学実績を高めています。
これらの学校は公募制によって、指導力に自信と情熱がある先生が全国から集まってきています。都内在住、または都内に引っ越し予定の方はこうした都立高校に進学できる可能性があることも高校受験のメリットのひとつといえます。

高校受験で知っておきたい10の事実 その9 
子供の負担が少ない

中学受験では、塾に入るタイミングが小3、小2、小1と年々早くなっています。一方、高校受験は「学校での勉強をある程度きちんとやっていれば」という条件付きではありますが、早慶附属だったら中2スタートで早稲アカなどに入塾、公立高校だったら中3の夏に部活を引退してから本腰で受験勉強を始めてもハイレベルな高校をめざせます。

高校受験で知っておきたい10の事実 その10 
親の負担が少ない

中学受験では「私があの子をなんとかしてあげないと」「俺があいつを導いてやらないと」と子供よりも親がわが子の受験に熱くなるケースが多いです。一方、高校受験では、勉強も志望校選びもほぼ塾任せ、保護者は半年に1回の保護者会と保護者面談に参加するだけ、そんな保護者が大半です。
保護者面談でも「結局本人の受験だから、私は見守るだけです」と、そうおっしゃる方が多いです。10歳前後の小学生の受験サポートをするよりは、12歳から15歳の中学生のサポートの方が負担は軽いのは確かだといえるでしょう。
さて、今回、どちらかというと高校受験のメリットにフォーカスした内容になりましたが、中学受験、高校受験、どちらかが絶対的に良いということはありません。中学受験、高校受験、それぞれにリスクもあれば、良さもあります。
だからこそ、中学受験を考えている親御さんにも高校受験のメリットを知っていただくことで、「中学受験を考えているんだけれども、公立中に進学して高校受験をするのもあり」そう考えることもできるように今回の内容をお伝えしました。
進路選択に正解はありません。試行錯誤しながら、選んだ選択肢が正解になるようにお子様をサポートしていただけたらと思います。

西村創
受験指導専門家

早稲田アカデミー、駿台、河合塾Wingsなどで指導歴25年以上。
新卒入社の早稲田アカデミーでは、入社初年度に生徒授業満足度全講師中1位に輝く。
駿台ではシンガポール校講師を経て、当時初の20代校長として香港校校長を務め、過去最高の合格実績を出す。 河合塾Wingsでは講師、教室長、エリアマネージャーを務める。
現在はセミナー講演や書籍執筆、「にしむら先生 受験指導専門家」としてYouTube配信(チャンネル登録10万人超)などを中心に活動。
著書は『中学受験のはじめ方』(KADOKAWA)など多数。