四谷大塚「全国統一小学生テスト」と
日能研「全国テスト」の比較と注意点
2024.5
四谷大塚「全国統一小学生テスト」と
日能研「全国テスト」の比較と注意点
2024.5
中学受験指導の二大老舗大手塾である四谷大塚と日能研。どちらの塾も、中学受験勉強をめざす全国の小学生を対象にした無料の公開模試を一年に2回、6月、11月に実施しています。今回はそんな四谷大塚の「全国統一小学生テスト」と日能研の「全国テスト」の違いと注意点を紹介します。
四谷大塚の「全国統一小学生テスト(「全統小」)」と日能研の「全国テスト」の出題内容やレベルは基本的には似ています。しかしながら、よく比べてみると、「全国統一小学生テスト」と「全国テスト」は、それぞれ異なる考えで作成、運営されていることがわかります。
「全統小」のいちばんの特長は、中学受験勉強における現在の学力の位置付けが、全国の小学生同学年のなかでどれくらいなのかを客観的に把握できることです。受験者数は小学生が受けるテストで日本最大規模です。
「全国統一小学生テスト」と「全国テスト」受験者数を比較すると、受験年度、受験月、学年によってバラつきがあるものの、「全統小」は「全国テスト」の約3倍の受験者数になっています。「全統小」は「全国テスト」よりも、中学受験勉強における現在の学力の実態を把握できると言っていいでしょう。
「全統小」が中学受験勉強における現在の学力の実態を把握できるテストだといえる理由は、テスト内容にもあります。「全統小」は、小1から私立中の入試問題に寄せた作問となっています。
たとえば「全統小」の小2の6月実施のテストでは、つぎのような計算問題が出題されています。
つぎの◻︎にあてはまる数を答えましょう。
3 + 5 + 7 + 9 + 11 + 13 + 15 + 17 = ◻︎
一方、「全国テスト」の小2の6月実施のテストでは、つぎのような計算問題が出題されています。
かのんさんは、たし算の問題を、つぎのようにくふうして計算しました。
あなたも、このくふうのしかたを、つかってみましょう。
14 + 7 + 8 + 6 + 13 + 13 を、くふうして計算しましょう。
「全統小」も 「全国テスト」も計算問題は数字が異なるだけで同じ工夫で解ける問題ですが、「全国テスト」では、その工夫のしかたが例示されています。
入試では、「全国テスト」のように、問題を解くための考え方が示されることは、ほぼありません。「全統小」はより実際の入試問題に近い問題といえます。
「全国テスト」では、科目の域を超えた問題も出題されます。
これも小2の6月実施の例ですが、つぎのような文章題が出されています。
来週の日曜日、ゆいさんたち10人は、「ドッジボール大会」か「クイズ大会」のどちらかをすることになりました。
リーダーのゆいさんは、どちらにするのかをきめるために、さんかするみんなに右のようなアンケート用紙をくばって、意見をかいてもらうことにしました。
ゆいさんも入れた10人分のアンケートがあつまりました。
というような説明があり、その下に10人の意見が書かれたアンケートが掲載されています。
この後、これらのアンケートを見たゆいさんがこまっているわけを考えて説明させる問題、ゆいさんがこまっていることを解決するためにはどのようなことができるかを説明させる問題が続きます。まるで学校の道徳の授業のような問題ですね。
「全国テスト」は、作文に近い自由記述の問題もあり、テストを通じて、子供達に学ばせ、考えさせようとする作成者の意図がうかがえます。
「全統小」のテスト後は、テストの解説動画が配信されます。もちろんこの動画も無料でみることができるので、解けなかった問題の復習に役立てることができます。
テスト結果は、約1週間後にテストを受けた校舎に取りに行くと、「全国統一小学生テスト詳細分析 君だけの診断レポート」という冊子を手渡してもらえます。冊子の2ページ目に「今回の成績」というタイトルで、全国、都道府県別、男女別、教科別に得点、偏差値、平均点、順位が記載され、特筆すべきは小1から偏差値が出るところです。
また、「全統小」は四谷大塚入塾選抜試験を兼ねているので、入塾基準を満たすと、後日、二つ折りの厚紙にフルカラー印刷された「合格証」が郵送されてきます。
一方、「全国テスト」は、テスト直後に答案用紙がスキャンされて返却され、翌日には「Nポータル」という受験者専用のwebサイトで結果を確認できます。「全国テスト」は偏差値が出るのは小4からで、このあたりにも四谷大塚と日能研の考えの違いが見て取れます。
「Nポータル」に表示される答案には誤答は「×」、何も書いていないと「✔️」がつけられ、さらにすごいマル「○☆(ハナマル)」、すごいバツ「×☆(ハナバツ)」もつけられます。
他の子がどんな記述問題の答えを書いたかがわかる「仲間の記述例」も閲覧可能です。自由記述の「仲間の記述例」を見て「こんな考え方もあるのか」という気づきを得られるかもしれません。
「全統小」「全国テスト」はこれから中学受験を始める子向けのテストではあるものの、中学受験を意識したテストであるため、学校のテストとは別物です。「学校のテストではだいたいいつも100点!」という子でも、「全統小」「全国テスト」では半分も解けず、泣きながら試験会場から出てくるという子が毎年発生します。
そこで、わが子に「全統小」「全国テスト」を受けさせるのであれば、準備をしておきたいです。といっても、特別な対策は必要はなく、まずはこれまで学校で習った漢字の読み書き、計算をできるようにしておくことです。
また「全統小」「全国テスト」の公式サイトに各学年の過去問サンプルが掲載されているので解いておくと、「こんな難しい問題が出るの?!」という本番でのショックが和らぎます。
そのうえで、わが子に「今度塾で受けるテストはめちゃくちゃむずかしいから、解ける問題があったらラッキーだと思って。今度のテストは難しい問題のなかから、自分が解ける問題を見つけ出せるかを試すテストだからね。受け終わってから成績も出てくるけど、全然できてなくて当然だから気にしないように」と言い聞かせて、お子さんの精神的な負担を軽くしておくことが大事です。
そして、テストを終えてわが子が会場から出てきたら、テストを受け切ったことを褒めてあげること、今回挑戦したことは今後の力になること、成績が出たら、できているところにフォーカスして、そこを認めてもらえたらと思います。
西村創
受験指導専門家
早稲田アカデミー、駿台、河合塾Wingsなどで指導歴25年以上。
新卒入社の早稲田アカデミーでは、入社初年度に生徒授業満足度全講師中1位に輝く。
駿台ではシンガポール校講師を経て、当時初の20代校長として香港校校長を務め、過去最高の合格実績を出す。 河合塾Wingsでは講師、教室長、エリアマネージャーを務める。
現在はセミナー講演や書籍執筆、「にしむら先生 受験指導専門家」としてYouTube配信(チャンネル登録10万人超)などを中心に活動。
著書は『中学受験のはじめ方』(KADOKAWA)など多数。